ここでは、時間に依存しない中心力場(ポテンシャル)\(V = V(r)\)中を運動する質量\(m\)の粒子の運動を考える。なお、1. 時間部分の変数分離については、ポテンシャルが時間に依存しないことだけを前提とするため、座標のみに依存する任意のポテンシャル中の運動に対して成り立つ議論である。
1. 時間部分を変数分離し、波動関数の時間部分を求める
任意のポテンシャル\(\psi(\mathbf{r}, t)\)中で運動する質量\(m\)の粒子について、3次元空間におけるシュレーディンガー方程式は
$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(\mathbf{r}, t) = \left(-\frac{\hbar^2}{2m}\Delta + V(\mathbf{r}, t)\right)\psi(\mathbf{r}, t) \ …(1)$$
と書ける。\(\Delta\)はラプラシアン演算子である。ポテンシャルが時間に依存しないとき、
$$V = V(\mathbf{r})$$
と書くことができる。ここで、次のように波動関数を時間部分と空間部分に変数分離する。
$$\psi(\mathbf{r}, t) = f(t)\varphi(\mathbf{r}) \ …(2)$$
(2)を(1)に代入する。
$$i\hbar\varphi(\mathbf{r})\frac{\partial}{\partial t}f(t)=f(t)\hat{H}\varphi(\mathbf{r}) \ …(3)$$
(3)において
$$\hat{H} = -\frac{\hbar^2}{2m}\Delta + V(\mathbf{r})$$
とおいた。(3)の両辺を(2)で割ると
\begin{align*}
i\hbar\frac{1}{f(t)}\frac{\partial f(t)}{\partial t} &= \frac{1}{\varphi(\mathbf{r})}\hat{H}\varphi(\mathbf{r})\\
&= E \ …(4)
\end{align*}
となる。1行目では、時間\(t\)だけを含む左辺と座標\(\mathbf{r}\)を含む右辺が等しいので、
時間\(t\)にのみ依存する左辺=時間\(t\)に依存しない右辺
となる。座標依存についても同様である。よって、両辺は定数になる。この定数を\(E\)とおいた。時間部分についての微分方程式
$$i\hbar\frac{1}{f(t)}\frac{\partial f(t)}{\partial t}=E$$
を解く。両辺を\(t\)で積分すれば、波動方程式の時間部分の解\(f(t))が得られる。
$$f(t) = \mathrm{exp}\left(-\frac{iE}{\hbar}t\right) \ …(5)$$
☑チェック
・シュレーディンガー方程式を時間部分と空間部分に変数分離した。
・時間部分の波動関数を求めた。
2. 空間部分の変数分離
(4)の2行目・3行目により、空間部分の微分方程式(時間に依らないシュレーディンガー方程式)
$$ \hat{H}\varphi(\mathbf{r})= E\varphi(\mathbf{r})\ …(6)$$
が得られる。中心力場の場合、ポンテンシャルは
$$V = V(r)$$
と書ける。ここで、ラプラシアンの\(\Delta\)の極座標表示を使用することで、(6)は(7)のように書き表される。
\begin{align*}
\hat{\Lambda}(\theta, \phi)&=\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\frac{\mathrm{cos}\theta}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}+\frac{1}{\mathrm{sin}^2\theta}\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\\
\Delta&=\frac{\partial^2}{\partial r^2}+\frac{2}{r}\frac{\partial}{\partial r}+\frac{1}{r^2}\hat{\Lambda}(\theta, \phi)
\end{align*}
ラプラシアン\(\Delta\)の極座標表示の導出はこちらの記事で詳しく解説している。
$$\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2}{\partial r^2}+\frac{2}{r}\frac{\partial}{\partial r}+\frac{1}{r^2}\hat{\Lambda}\right)+V(r)\right\}\varphi (r, \theta, \phi) = E\varphi (r, \theta, \phi)… \ (7)$$
ここで、波動関数を動径部分と角度部分に分離する。
$$\varphi (r, \theta, \phi) = R(r)Y(\theta, \phi) \ …(8)$$
両辺に\(-\frac{2mr^2}{\hbar^2}\)をかけることで
$$r^2\left(\frac{\partial^2}{\partial r^2}+\frac{2}{r}\frac{\partial}{\partial r}+\frac{1}{r^2}\hat{\Lambda}-\frac{2m}{\hbar^2}V(r)\right)RY = -\frac{2mr^2}{\hbar^2}ERY$$
左辺と右辺の間で移項を行うと
$$r^2\left\{\frac{\partial^2}{\partial r^2}+\frac{2}{r}\frac{\partial}{\partial r}+\frac{2m}{\hbar^2}\left(E-V(r)\right)\right\}RY = -\hat{\Lambda} RY$$
両辺を\(RY\)で割れば
\begin{align*}
\frac{r^2}{R}\left\{\frac{\partial^2}{\partial r^2}+\frac{2}{r}\frac{\partial}{\partial r}+\frac{2m}{\hbar^2}\left(E-V(r)\right)\right\}R &= -\frac{1}{Y}\hat{\Lambda}Y\\
&= \lambda \ …(9)
\end{align*}
(4)における変数分離同様、一行目の左辺は動径\(r\)のみに依存し、右辺は角度\(\theta, \phi\)のみに依存するため、両辺は定数となる。この定数を\(\lambda\)とおいた。
☑チェック
・空間部分のシュレーディンガー方程式を、動径部分と角度部分に変数分離した。
2-1. 動径部分のシュレーディンガー方程式
(9)により
$$\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d} r^2}+\frac{2}{r}\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}r}-\left(E-V(r)\right)\right\}R = -\frac{\hbar^2\lambda}{2mr^2}R$$
最終的に
$$\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d} r^2}+\left(V(r)+\frac{\hbar^2\lambda}{2mr^2}\right)\right\}R(r) = ER(r) \ …(10)$$
となる。また、後の角度部分の議論により、\(\lambda = l(l+1)\)となる。
☑チェック
動径部分のシュレーディンガー方程式を整理した。
2-2. 角度部分のシュレーディンガー方程式
角度部分の方程式
$$\hat{\Lambda}Y(\theta, \phi) = -\lambda Y(\theta, \phi)$$
ここで更に、次のように変数分離をする。
$$Y(\theta, \phi) = \Theta (\theta)\Phi (\phi)$$
これを角度部分のシュレーディンガー方程式に代入すると
$$\left(\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\frac{\mathrm{cos}\theta}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}+\frac{1}{\mathrm{sin}^2\theta}\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\right)\Theta\Phi = -\lambda\Theta\Phi $$
両辺に\(\mathrm{sin}^2\theta\)をかけると
$$\left\{\mathrm{sin}^2\theta\left(\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\frac{\mathrm{cos}\theta}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}\right) + \frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\right\}\Theta\Phi = \lambda\mathrm{sin}^2\theta \Theta\Phi$$
両辺を\(\Theta\Phi\)で割ると
$$\frac{1}{\Theta}\mathrm{sin}^2\theta\left(\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\frac{\mathrm{cos}\theta}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}\right)\Theta + \frac{1}{\Phi}\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\Phi = -\lambda\mathrm{sin}^2\theta$$
\begin{align*}
\frac{1}{\Theta}\mathrm{sin}^2\theta\left(\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\frac{\mathrm{cos}\theta}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}+\lambda\right)\Theta&=-\frac{1}{\Phi}\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\Phi\\
&= \mathrm{const}\\
&= m^2 \ …(11)
\end{align*}
ここで、(4)や(9)での変数分離同様、一行目の左辺は角度\(\theta\)のみに依存し、右辺は角度\(\phi\)のみに依存するため、両辺は定数となる。この定数を、後で方程式の解を求める際の都合上\(m^2\)とおいた。
☑チェック
・角度部分のシュレーディンガー方程式を\(\theta, \phi\)それぞれについて変数分離した。
2-2-1. 方位角部分のシュレーディンガー方程式を解く
(11)により方位角\(\phi)部分のシュレーディンガー方程式は
$$\frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d}\phi^2}\Phi (\phi) = -m^2\Phi (\phi) \ …(12)$$
となる。では、この方程式を解いていこう。この2次の微分方程式の一般解は、適当な定数を用いて
$$\Phi (\phi) = Ae^{im\phi}+Be^{-im\phi}$$
と書ける。これは、\(\phi\)の正の方向の波\(e^{im\phi}\)と負の方向の波\(e^{im\phi}\)を重ね合わせたものである。今、球対称ポテンシャルを考えているから、粒子は、\(phi\)の方向ついては自由粒子であると考えられる。よって、負の方向の成分は0としてしまう。また、周期性により
$$\Phi (\phi) = \Phi (\phi + 2\pi)$$
を満たすことが要請される。(12)の解は、この要請を満たすとき
\begin{align*}
& e^{im\phi} = e^{im(\phi+2\pi)}\\
\Leftrightarrow & 1 = e^{im(2\pi)}
\end{align*}
すなわち
$$m = 0, \ \pm 1, \ \pm 2, \ …$$
となる。また、規格化条件\(1 = |A|^2\int_0^{2\pi}e^{-im\phi}\cdot e^{im\phi}\)により\(A = \frac{1}{2\pi}\)が得られる。したがって
\begin{align*}
\Phi_m(\phi) &= \frac{1}{2\pi}e^{im\phi} \ …(14)\\
& \ (m = 0, \ \pm 1, \ \pm 2, \ …)
\end{align*}
☑チェック
・方位角\(\phi)部分のシュレーディンガー方程式を整理した。
・\(\phi)の波動関数を求めた。
2-2-2. 天頂角部分のシュレーディンガー方程式を解く
(11)により方位角\(\phi\)部分のシュレーディンガー方程式は
$$\left\{\frac{1}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}\left(\mathrm{sin}\theta\frac{\partial}{\partial \theta}\right)+\lambda\right\}\Theta = \frac{m^2}{\mathrm{sin}^2\theta}\Theta$$
と書ける。ここで、次の式変形を用いた。
$$\frac{\partial^2}{\partial \theta^2}+\frac{\mathrm{cos}\theta}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta} = \frac{1}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}\left(\mathrm{sin}\theta\frac{\partial}{\partial \theta}\right)$$
整理すると、方位角に関する方程式は次のようになる。
$$ \frac{1}{\mathrm{sin}\theta}\frac{\partial}{\partial \theta}\left(\mathrm{sin}\theta\frac{\partial \Theta (\theta)}{\partial \theta}\right)+ \left(\lambda – \frac{m^2}{\mathrm{sin}^2\theta}\right)\Theta (\theta) \ …(15)$$
では、この天頂角に関する方程式(15)を解こう。微分方程式に関する高度な知識が必要なので、天下り的な解き方になってしまうが、仕方がない。
まず、\(\theta \ rightarrow z=\mathrm{cos}\theta\)と変数変換し、
$$\Theta (\theta) = P^m(z)$$
とおく。すると、(15)において
$$\frac{\partial}{\partial \theta} = \frac{\partial z}{\partial \theta}\frac{\partial }{\partial z} = -\mathrm{sin}\theta\frac{\partial }{\partial z}$$
となるから
$$ \frac{1}{\mathrm{sin}\theta}\left(-\mathrm{sin}\theta\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} z}\right)\left(-\mathrm{sin}^2\theta\frac{\mathrm{d} P^m(z)}{\mathrm{d}z}\right)+ \left(\lambda – \frac{m^2}{1-z^2}\right)P^m(z)$$
と変形することができる。この微分方程式の解は\(\lambda = l(l+1)\) (\(l\)は0または正の整数)という特定の値をとらない限り、\(z = \pm 1 \ (\theta = 0, \pi)\)で発散し、物理的に許されないことが知られている。よって、解くべき方程式は次のようになる。
ルジャンドルの陪微分方程式
$$ \frac{1}{\mathrm{sin}\theta}\left(-\mathrm{sin}\theta\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} z}\right)\left(-\mathrm{sin}^2\theta\frac{\mathrm{d} P^m(z)}{\mathrm{d}z}\right)+ \left(l(l+1) – \frac{m^2}{1-z^2}\right)P^m(z)$$
そして、この解は\(|m|\le l\)を満たす量子数\(l\)を用いて次のようになる。第一式はルジャンドル陪多項式、第二式はルジャンドル多項式と呼ばれる。
\begin{align*}
& P_l^m(z) = (1-z^2)^{\frac{|m|}{2}}\frac{\mathrm{d}^{|m|}P_l(z)}{\mathrm{d}z^{|m|}}\\
& P_l(z) = \frac{1}{2^l l!}\frac{\mathrm{d}^l}{\mathrm{d}z^l}(z^2-1)^l, \ (l=0, 1, 2, …)
\end{align*}
結局、天頂角\(\theta\)部分の解はルジャンドル陪多項式を用いて表される。
$$\Theta (\theta)_{lm}\equiv P_l^m(z)$$
☑チェック
・天頂角\(\theta\)部分のシュレーディンガー方程式を整理した。
・\(\theta\)の波動関数はルジャンドル陪多項式で表されることを確認した。
2-3. 空間部分のまとめ
角度\(\theta, \phi)部分の解は、それぞれの変数について変数分離したシュレーディンガー方程式を解くことで、次のように求まることを確認した。
\begin{align*}
\Phi_m(\phi) &= \frac{1}{2\pi}e^{im\phi} \ …(14)\\
& \ (m = 0, \ \pm 1, \ \pm 2, \ …)
\end{align*}
$$\Theta (\theta)_{lm}\equiv P_l^m(z)$$
これらの積を取り、規格化した結果は、次の球面調和関数として与えられる。
\begin{align*}
Y_{lm}(\theta, \phi) &= Theta (\theta)_{lm}\Phi_m(\phi)\\
&= (-1)^{\frac{|m|+m}{2}}\sqrt{\frac{(2l+1)(l-|m|)!}{4\pi (l+|m|)!}}P_l^m(\mathrm{cos}\theta)e^{im\phi}
\end{align*}
以上より、(8)のように変数分離していた3次元のシュレーディンガー方程式(空間部分)の固有関数は
$$\varphi (r, \theta, \phi) = R(r)Y_{lm}(\theta, \phi)$$
と書ける。動径部分の解については、ポテンシャルの形で毎回異なるため、ここでは触れていない。
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