はじめに
本書の中の随所で筆者が述べているように、抽象的かつ概念的な話が多い本だった。確かに、性に合う人と、いまいち腑に落ちない人に二極化しそうだと思った。私は、こういう議論が結構好きな方なので、楽しませていただいた。
印象深かった記述
たまたま、僕はこんなふうに考えて、こんなふうに生きているけれど、しかし、それがあなたの人生にも適用できるという保証は全然ない。
ものすごい客観視をしているな、と思った。同時に、私も同じようなことを考えているなと思った。人にそれっぽい助言をできないし、責任を持てない明言は避けたいし、結局は「時と場合による」という身もふたもない結論に至ってしまう。冒頭のこの記述を読んで、森博嗣という人の、言語化された思考をもっと知りたくなった。
個人のレベルでも憲法のような理想の精神を持っていなければならない
自分で本当にいいと思うものを信じる方が良い。信じる者が分からなければ、それをよくよく考えればいい。
時には、納得していなくても、周りに流された方が楽なこともある。しかし、表面上の言動がどうであれ、自分の信念を持っていることが大切。ネガティブな感情に支配されそうなときは、一度、自分の理想に立ち返り、状況を客観視するべきだと思った。
将来の夢という言葉と裏腹に、何故かほとんど例外なく「どんな職業に就きたいか」ということを子供たちは答えてしまう。
私も「将来はイルカショーのお兄さんになりたい」と答えていた保育園児の時点で、固定観念にとらわれていたのかもしれない。と思うと、ちょっと悔しい。チーターになりたいと言っていた同級生は、案外自由な発想ができていたのかもしれない。
大学や会社や結婚に対する憧れも、個のスタート地点の祝福と感動がゴールであって、その先の長い時間をほとんどイメージしていない。
確かに、受験で志望校に合格したり、就職が決まれば嬉しいけれど、それですべてが終わったと思い込むのは、私には理解できない。喜びよりも、その先に待っている未知の出来事や、不安の方が大きい。その先何年間かの居場所が決まり、多少の安心感を得て、「よし、ここから、また頑張ろう」と思える状況を続けていきたい。
つまりは、自分がどれだけ納得できるか、自分で自分をどこまで幸せにできるか、ということが、その人の価値だ。
無限ともいえる意志や事象の分岐の結果、今の私がいる。量子力学のように、世は、1か0だけで決まらない。明らかに人や生き物や自然を傷つけること以外は、こうすべき、というものはない。
勉強に身を置く時間というのが、人間にとって最も価値がある投資だと思う。
明言を避ける著者が、ここまで言い切っている。遠回りしてもいい。すぐに役に立たなくてもいい。何となくでもいい。そう言い切っている人がいるという事実だけで、私は少し自信を持てた。
ずっと付き合わなければならないからこそ、不満が気になり、早めにギャップを修正しよう、と考えるのだ。
著者の小説「冷たい密室と博士たち」でも「裏の裏は表」という表現があった。そのような抽象的な概念を、たまに現実問題に当てはめてみて、問題の本質を考える時間も必要だと思った。また、理想とする自分になるために必要な要素をいくつかの概念でまとめ、すぐに振り返れるようにしておけば、道を踏み外しそうなときでも、原点に立ち返ることができるかもしれない。
さいごに
著者が本書で言いたかったことは
- 自分の理想の信念を持つこと。
- 判断、決断の際、その信念に基づいてよく考えたなら、答えはどっちでもいい。
だと思った。
色々な考え方、自分と異なる価値観を知り、理解することは重要である。
しかし、それと同時に、自分の理想とする考え方を、自分にフィットするような表現で言語化されている書籍を読み、「信念」をより具体的なものにするのも大切だと思った。
コメント