理系大学生は、大学に入学すると、大抵は最初に力学を学びます。
私は国立大学の理学部に入学したので、当然のように力学を履修することになっていました。
そして、「高校物理の延長だろう」という甘い考えを持って授業に臨んだところで、
微分方程式や、ベクトルの外積など馴染みのない数学的な概念が登場します。
私の通っていた大学では2年次から専攻が分かれるので、高校で物理が得意だった人も、
「思ってたのと違う…」と言い始め、多くの人が物理から離れていきました。
私もまさにその一人で、数学チックすぎる物理から逃避し、
環境科学(地球惑星科学と呼ぶ大学もあるらしい)に進みました。
しかし、紆余曲折を経て物理に興味を持ち始め、(2年近くの長い勉強期間を経て)
大学院は物理系に進学することとなりました。
具体的に勉強し、院試で出題されたのは以下の分野です。
- 力学
- 解析力学
- 電磁気学
- 熱力学
- 統計力学
- 量子力学
今回は、高校時代にはセンター試験の物理で64点(偏差値53くらい)だった状態から、大学レベルの物理を独学して、北大の物理系大学院に合格するまでにやったことを紹介します。
このやり方は、無理せずに大学物理を攻略できるので、物理学科の方にも、
物理を独学してみたい方にもお勧めです。
私は、毎年2月に一回は泊りで旅行に行っていましたし、バイトも2つ掛け持ちしていました。
勉強以外の学生生活との両立も可能な、ゆるく・効率的に学べる方法だと思います。
1年次(あまり勉強していなかった)
1年次は、大学受験から解放され、あまり勉強はしていませんでした。しかし、単位稼ぎのために履修していたり、選択必修で履修していた以下の科目
<数学系(1年次に勉強)>
- 微分積分(特に偏微分や全微分の概念)
- 線形代数学(行列)
- ベクトル解析
は、後に物理を勉強する上で役に立ちました。特に、「電磁気学はほとんどベクトル解析でできている」と言っても過言ではないくらい、ベクトル解析を理解しているかどうかで電磁気学の理解度が決まります。
ベクトル解析に関しては、専門書では難しすぎるので、以下の入門書を読んで勉強しました。まず、「高校生からわかるベクトル解析」は、図を多用して解説しているため直感的に理解しやすいですし、「高校生からわかる」というタイトルもうなずける分かりやすさです。また、微分積分・線形代数については、それ単体の教科書(例えば「微分積分学」というタイトルの本など)では、内容が高度すぎますし、物理学で必要な知識を得るにはボリュームが過剰です。「物理のための数学」では、学部レベルの物理学を学ぶために知っておきたい数学的知識を、必要なだけ学ぶことができます。
とはいえ、入学早々勉強だけというのも息が詰まってしまいますので、
1年生の間は、最低限の数学の授業を取っておき、後に出会う数式の理解を楽にする。
くらいでいいのではないでしょうか。
2年次(バイトと部活が忙しすぎた)
2年次には、専攻に分かれるので、自然環境科学専攻に進みました。
GPAを上げるために中間・期末テストの勉強は頑張っていましたが、
難しそうな物理系の授業はなるべく履修を避けていました。
そんな中でも、少しは数学力を身に付けようと履修して役立ったのが、
<数学系(2年次に勉強)>
- 微分方程式
です。微分方程式を学んだことで、後に履修した、物理学科向けの力学の授業を難なく理解することができました。また、独学で偏微分を勉強していたこともあり、熱力学の授業も難なく理解できました。
<物理系(2年次に勉強)>
- 力学
- 熱力学
力学のお勧め教科書は、物理学の分野で理論家を目指す場合などを除けば、「考える力学」一択です。優しすぎることもなく、一方で数学的背景を丁寧に記述しているので、着実に実力をつけることができます。この1冊が十分に理解できれば、学部レベルの力学をほぼマスターしたといってもいいのではないでしょうか。熱力学については、抽象的な概念が多いため、一冊の本で理解し切ることは難しいかもしれません。何冊か手元に置いておき、理解に詰まったら、自分にとって分かりやすい表現をしている本を参照するのが良いでしょう。とはいえ、メインで勉強する本は決めておきたいところ。三宅先生の「熱力学」は、ボリュームが多すぎず、比較的初学者でもわかりやすいのでお勧めです。
2年生の間は、数学を学びつつ、物理の専門科目にも手を出してみる。
これによって、着実に数学チックな物理に慣れていくことができます。
3年次(本格的に物理を学ぶ)
3年次には、物理系の大学院を意識し始めていたので、院試に必要な科目を一気に勉強しました。
<数学系(3年次に勉強)>
- 複素関数論(深く学ぶ必要はなし。)
ここまでで紹介した数学系の科目を勉強していれば、以下の物理系科目は理解できました。
<物理系(3年次に勉強)>
- 電磁気学
- 解析力学
- 量子力学
- 統計力学
解析力学・量子力学・統計力学は、高校の物理からつながる内容がほとんどありません。よって、まず授業を利用するのが良いでしょう。授業を取れない、あるいは大学でわかりやすい授業が無い場合は、まず以下の教科書を読んでみて、「全く何を言っているのかわからない」と思ったらYoutubeでざっくりと概観をつかむのが良いでしょう。
また、統計力学に関しては、慶応大学の講義(Youtubeで「慶応大学 統計力学」と検索)が最高にわかりやすいです。全14回の講義です。私は統計力学の授業を履修することはできませんでしたが、このシリーズの動画をすべて視聴することから統計力学の勉強を始めました。あくまで講義動画ですので、演習は別途自分で行う必要があります。しかし、この講義動画で効率的かつ十分に基本を押さえることができます。実際、私は院試本番の統計力学は9割は解けました。
3年生の間は、これまでの数学的な知識があるので、一気に残りの科目を勉強する。
結果的に上手くいきましたが、1年の勉強量としては多すぎたので、
2年生の間に電磁気学は終わらせておいても良かったかもと反省しております。
4年次(院試の過去問を解く)
3年次終了までに、物理学の基礎はおおむね勉強が完了しており、
4年次には、北大理学院の院試の過去問(物理学)を解きました。
以下、大学院に進学しない方や、内部進学の方には関係のないお話かもしれません。
大学院入試の問題は、大学によって公開されていない場合もありますが、
北大の物理系は良心的で、過去の全ての問題がWebに公開されています。
とはいえ、後悔されているのはあくまで「問題」だけです。
外部の大学から(知り合いなどから解答を貰わずに)合格したい場合には、
自力で問題を解いたり、
問題集や教科書で似たような問題を探しながら解答を作成していく必要があります。
これはあくまで私の感想ですが、
(1)
- 過去問を初見で一部(3、4割くらい)自力で解ける
- 残り(6,7割くらい)をネットや参考書を調べながら解ける
状態になっていていること。
(2)
(1)の要領で10年分くらい解答を作成し、それを3回程度繰り返し解くこと。
この2点がクリアできれば、文句なしの合格点が取れるように感じました。
大学院入試の合格ラインは不明瞭ですが、おそらく
他の大学院でもこのような感覚なのではないでしょうか。
※北大理学院(物性物理学専攻・宇宙理学専攻共通)の物理の試験の解答を、令和2年度から平成27年度分まで作成しました。本サイトに掲載しておりますので、是非ご覧ください。
最後に
私が大学の物理を勉強してきた流れを紹介してきました。
各科目で使用した教科書など、随時紹介出来たらなと思います。
こちらの記事では、以上の独学の経験で大切だと思ったこと(精神的なこと等)をまとめました。興味がありましたら、ぜひご覧ください。
数学を制する者は物理を制す
ということで、大学物理を修得したいと思った際には、ぜひ数学を先に勉強することをお勧めします。
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