はじめに
この記事は以下のような方に向けた内容となっております。
- 大学レベルの物理学を勉強したいけれど、ハードルが高く、長続きしなさそうだと思っている学生や社会人の方。
- 専攻のカリキュラム上あるいは、大学院入試のために、物理を勉強しなければならないけれど、難しすぎて挫折しそうな大学生。
私は学部時代、物理専攻ではなかったのですが、ひょんなことから物理学を独学し始めました。
専門科目の勉強に力を入れる傍ら、それと同時並行で1年半ほど物理を独学し、最終的には物理を専門科目として選択し、北大の大学院入試に合格した実績があります。ですので、物理学を専攻とする大学生の中に紛れ込んでも、上位5~10%くらいの理解レベルには達したのではないかと思います。(あくまで私が勉強した学部レベルの範囲内では、という意味です)
とはいえ、量子力学などの高尚な概念を真に理解しているかと言えば、”NO”でしょう。未だに理解があやふやな分野もありますし、大学院に入ってから各コースで学ぶ「場の量子論」「素粒子物理学」などは、私の研究分野では一切使いませんので、勉強していません。また、学部レベルの物理に限っても、有名大学物理学科の成績トップの学生には及ばないでしょう。実際に、北大で受けた院試の成績は、配属先の研究室の教授に褒められこそしましたが、素粒子論を専門とする学生や、東大の院試を受けに行くような学生には届きませんでした。
なので、上記の筆者のレベル感を知った上で、本記事をご覧いただければと思います。
また、大学在学中に、どの科目を、どのような順番で勉強したのかはこちらの記事で紹介しています。興味があればこちらもどうぞ。
物理学の勉強を着実に進めていくために必要な5つのこと
大学生が勉強すべき物理学は難しいです。
独学で勉強していれば、1つの数式・1つの概念の理解に5時間以上かかることもあります。
しかし、たった1行の数式の意味が分かるだけでも嬉しいものです。
私は、物理学の勉強を通して得る「理解力の壁を乗り越えていく感覚」や充実感は、一般的な趣味や娯楽以上に、人生を豊かにしてくれると考えています。
また、物理学では、複雑に絡み合う要素の中から本質的な部分を抽出し、自然現象をシンプルなモデルを用いて理解していきます。ですので、物理学を学ぶ過程で、「何が重要で、何を無視して考えるか」といった思考が身についていくものと考えています。
以下、物理学を学び続けるために必要だと思われる要素を紹介していきます。
1. 目標を持つ
意識の持ち方は、想像以上に重要です。心が折れないというのは、それだけで継続力に直結します。目標は明確であるに越したことはありませんが、モチベーション維持ができるならば、多少ふわっとしていても良いと思います。私の場合は、以下のような目標をもって勉強していました。
長期的な目標・モチベーション
- 大学の部活で、人柄に憧れていた先輩が、物理学科の優秀な人だった。
→大学物理を修得できると世の中の本質的な何かを悟れるかもしれない。 - 高校時代には苦手だった数学・物理に対する苦手意識を克服したかった。
- すべての科学(化学・生物・地学・工学)の基礎であろう物理学をマスターすれば、その後どんな分野の勉強をしても、役立つと考えた。
- 受験できる大学院の幅が広がると思った。
短期的な目標・モチベーション
- 履修した物理学科の講義で「秀」(最高評価)の成績を取る。
- ○○学期中に、1次元のシュレーディンガー方程式の解法をマスターする。
- 今週中に、ガウスの定理・ストークスの定理を証明を含めて理解する。
など。達成度合いを評価できるよう、短期的な目標ほど、明確である必要があります。
小さな目標を達成した自分には、小さなご褒美をあげましょう。私は、自転車で少し遠出するのが好きなので、自然の癒しを求めてサイクリングしていました。
2. 時間を十分に確保する
じっくり手を動かして計算したり、頭の中で試行錯誤する時間は、物理を脳と身体になじませるための必須要素です。
初めて見る形の積分、微分方程式の解き方、変数が多すぎて四則演算すらも複雑になっている数式など、教科書を眺めているだけでは非効率です。とにかく手を動かしてノート上で計算します。
また、どのように式変形をすれば、式(1.1)から式(1.2)が導き出されるのか。大学の教科書は、細かい途中計算までは面倒は見てくれません。自分で解決する必要があります。計算過程を見直したり、ネットや図書館でヒントとなる資料を探したり、とにかく試行錯誤します。
決して天才的なひらめきが必要なわけではありません。私も平凡な大学生だったので、最初はちょっとした計算テクニックや、近似の公式すらも、気づくのに3時間はかかりました。
しかし2,3か月継続していると、感覚がつかめてきます。何事も慣れが重要です。
3. 諦めずに調べる努力が必要
大学受験の参考書は、「まず1冊を完璧にする」「薄い問題集を短期で完了させていく」といったこと重要だと言われますが、大学の物理では事情が異なります。入門書と呼ばれるもの(数式をほとんど用いない漫画のような本ではない)でも、200~300ページはあります。基本的な数学まで親切に記述してくれている本では、400~500ページくらいでしょうか。
まずは、自分に合っていそうな本・何とか読めそうな本を1冊探してみると良いです。基本的には、その一冊を理解すべく、数式をノートに書き写していきます。多重積分なんかを書いていると、「大学生らしい勉強をしているなあ」という気分に浸ることもできます。
しかし、高校時代の参考書などに比べると、途中式が省略されていたり、何章も前に出てきた概念が当然の事実として扱われていることが多いです。
本によって表現が違いますし、人によって頭に入ってきやすい言葉は異なるので、メインでつかう本+sサブで2,3冊のレベルの近い本を手元に置いておくと良いです。「メインの本は全体的にわかりやすいけれど、○○方程式のパートはサブで用意した本の方が分かりやすい」ということも多々あります。何冊も購入するのは高負担なので、図書館を利用しましょう。
勉強しているうちに、メインで読み進めたい本が変わるかもしれません。切りのいいところで交代しても問題ないでしょう。直感の赴くままに。
4. 時には諦めることも必要
私は勉強に行き詰ったとき、一旦机を離れてリラックスしていると、ふとした時に理解できることも多いです。特に、新たな概念がどんどん出てくる物理学では、???と理解に苦しむ場面に遭遇します。
一旦勉強から離れて頭を休めてみたり、自分だけで考えるのを諦め、その道の専門家に質問してみるなど、色々な方向性のことをやってみるのがおすすめです。
- 静かなところを散歩してみる
- 演習問題はさっさと解答を見てしまう
- 仮眠してみる
- 別の分野の勉強をしてみる
- 講義を受講している場合は、大学の教員に質問してみる
- 講義を受講していなくても、教員にメールで連絡を取ってみる
時には夕方の散歩に出かけてみましょう。自宅の近所でも、思わぬ絶景が見れるかもしれません。
5. 知的好奇心を大切にする
勉強は、本来楽しいものだと思っています。
私たちは大学の教科書は難しくて不親切だと思ってしまいがちですが、考えてみれば当然のことです。教科書の内容は、過去の天才学者や、研究に人生をかけた偉人たちの執念による発見の数々です。
そして、著者らがそれらの研究成果を理解し、なるべく多くの有益な情報を、より多くの人に理解してもらおうと言葉を選び、膨大な時間をかけて書き上げた努力の結晶が1冊の書籍になっています。
ですから、物理学に限らず、学問が難しいのは当たり前であり、一方で非常に面白いものでもあります。
私は博士課程にも進学しませんし、基礎研究を続けていく訳でもありませんが、大学での学びを通して、難しいからこその学問の面白さを体感することができました。
最後に
Practice makes perfect.
英語には、このようなことわざがあります。色々と書いてきましたが、要は、重要なことは、これに尽きると思います。日本語訳は「継続は力なり」「習うより慣れよ」です。
前者の日本語訳が正しいという意見もありますが、私は、2つの意味が混ざり合っているとも解釈できるのではないかと思います。どちらにせよ、本質は変わらないでしょう。
大学物理に限らず、プログラミング、語学学習、数学や化学など他の学問分野でも同じことです。1日机に向かっていたからと言って、学問体系を完璧に理解することはできません。専門書を20ページ読み進められたら、上出来なほうです。
しかし、心が折れそうなほど難しく、何度もやめてしまおうと思って、一朝一夕では身に付かないことにこそ、やる価値があるはずです。
即座に理解するのが難しい物理学ですが、あらゆるサイエンス・テクノロジーの最も基本的な部分を構成している学問体系です。物理学を学んでおくことは、新たな科学技術が次々と出てくる現代において、それらを理解したうえで利用していく、あるいは作り出していくことにも役立つと信じています。
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