各辺の長さが\(L\)、体積\(V=L^3\)の立方体容器があり、その中は真空であるとする。この容器及び容器内の電磁波が温度\(T\)の熱平衡状態にあるとする。下の図は、色々な角振動数を持った電磁波が容器内を飛び交うイメージである。
1. 固有振動の状態密度を求める
容器内において、\(\omega < \omega_\mathbf{k} < \omega + d\omega\)を満たす固有振動の個数は\(g(\omega)d\omega\)であるとする。
電磁波は、1つの固有振動に対して、直交した2つの直線偏光の重ね合わせで表される偏向状態を持つため、自由度が2つ存在する。よって、電磁波の状態密度(に体積\(V\)をかけた値)は、
$$g(\omega) = 2\sum_\mathbf{k}\delta (\omega – \omega_\mathbf{k})$$
と書ける。\(\delta\)はデルタ関数である。これを積分形に直していく。
\begin{align*}
g(\varepsilon) &= \frac{2}{(\Delta k)^3}\sum_\mathbf{k}(\Delta k)^3\delta (\omega – \omega_\mathbf{k})\\
&= \frac{2\pi}{L}\int d\mathbf{k}\delta (\omega – \omega_\mathbf{k})\\
&= \frac{V}{4\pi^3}\int_{0}^{\infty}dk 4\pi k^2 \delta (\omega – \omega_\mathbf{k})\\
&= \frac{V}{\pi^2c^3}\int_{0}^{\infty}\\
&= \frac{V\omega^2}{\pi^2c^3} \ (\omega > 0)
\end{align*}
2行目では、波数の周期境界条件
$$\mathbf{k} = \frac{2\pi}{L}(n_1, n_2, n_3) \ (n_1, n_2, n_3 = \pm 1, \pm 2, …)$$
を用いた。
3行目から4行目への式変形では、\(\omega_\mathbf{k} = kc, \ dk=\frac{d\omega_\mathbf{k}}{c}\)の関係を用いた。
また、5行目から6行目にかけてデルタ関数に対する積分の性質を用いた。
2. エネルギーの期待値を求める
上で求めた状態密度を用いて、各物理量を計算することができる。
固有振動を調和振動子であると考える。すると、量子力学で示されるように、波数ベクトル\(\mathbf{k}\)を持つ固有振動のエネルギーは、
\begin{align*}
\varepsilon_\mathbf{k} &= \left(n+\frac{1}{2}\right)\hbar\omega_\mathbf{k}\\
& \ (n=0, 1, 2…)
\end{align*}
と表される。したがって、波数ベクトル\(\mathbf{k}\)の固有振動の量子数\(n\)の期待値は
\begin{align*}
\langle n \rangle &= \frac{\sum_{n=0}^{\infty}ne^{-\beta\hbar\omega_\mathbf{k}\left(n+\frac{1}{2}\right)}}{\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}e^{-\beta\hbar\omega_\mathbf{k}\left(n+\frac{1}{2}\right)}}\\
&= \frac{-\frac{\partial}{\partial\beta}\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}e^{-\beta\hbar\omega_\mathbf{k}n}}{\hbar\omega_\mathbf{k}\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}e^{-\beta\hbar\omega_\mathbf{k}n}}\\
&= \frac{-1}{\hbar\omega_\mathbf{k}}\frac{\partial}{\partial\beta}\mathrm{log}\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}e^{-\beta\hbar\omega_\mathbf{k}}n\\
&= \frac{-1}{\hbar\omega_\mathbf{k}}\frac{\partial}{\partial\beta}\mathrm{log}\left\{1-e^{-\beta\hbar\omega_\mathbf{k}}\right\}^{-1}\\
&= \frac{1}{e^{\beta\hbar\omega_\mathbf{k}-1}}
\end{align*}
量子論の導入
粒子のエネルギー準位が\(\varepsilon_j\)で与えられるような、独立な同種の粒子から成る系があるとする。ここで、その系が、温度\(T, \beta = 1/k_BT\)の熱浴および、化学ポテンシャル\(mu\)の粒子源と接した平衡状態にある時、1粒子エネルギー準位\(\varepsilon_j\)にある粒子数の平均は、フェルミ・ディラック統計、ボーズ・アインシュタイン統計、マクスウェル・ボルツマン統計それぞれの場合について、以下のように表される。
\[
\langle n_j \rangle =
\begin{cases}
\frac{1}{e^{\beta (\varepsilon_j – \mu)}+1} \ \ (\mathrm{Fermi-Dirac})\\
\frac{1}{e^{\beta (\varepsilon_j – \mu)}-1} \ \ (\mathrm{Bose-Einstein})\\
\frac{1}{e^{\beta (\varepsilon_j – \mu)}} \ \ (\mathrm{Maxwell-Boltzmann})
\end{cases}
\]
上で求めた結果は、1粒子エネルギー準位\(\varepsilon_\mathbf{k} = \hbar\omega_\mathbf{k}\)、化学ポテンシャル\(\mu = 0\)のボーズ粒子に対応する分布であると解釈できる。このような粒子を光子と呼び、\(n = n_\mathbf{k}\)は、波数\(\mathbf{k}\)をもつ光子の粒子数であると解釈できる。
したがって、系の単位体積当たりのエネルギーの期待値は
\begin{align*}
\frac{\langle E \rangle}{V} &= \displaystyle\sum_\mathbf{k}\varepsilon_\mathbf{k}n_\langle\mathbf{k}\rangle\\
&= \displaystyle\sum_\mathbf{k}\hbar\omega_\mathbf{k}\langle n_\mathbf{k}\rangle\\
&= \int_{n=0}^{\infty}\frac{\hbar}{\pi^2c^3}\frac{\omega^3}{e^{\beta\hbar\omega}-1}d\omega
\end{align*}
となる。
3. プランクの輻射公式
ここで、被積分関数
\begin{align*}
u_T(\omega) &= \hbar\omega\cdot n(\omega)g(\omega)\\
&= \frac{\hbar}{\pi^2c^3}\frac{\omega^3}{e^{\beta\hbar\omega}-1}
\end{align*}
は、プランク分布(Planck distribution)、プランクの輻射公式(Planck’s radiation formula)あるいはプランクの法則(Planck’s law)と呼ばれる。
\(u_T\)は輻射の”エネルギー密度”である。よって、\(u_T(\omega)d\omega\)は、\(\omega~\omega + d\omega\)の間の角振動数を持つ光のエネルギーである。
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