1. 積分強度とその誤差を求めたい
下図のような正規分布に従うデータがあるとします.黒い点はサンプル(実データ),青い曲線は,それをガウス関数\(f(x) = A\mathrm{exp}\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)\)でフィッティングしたものです.
これについて,データの取りうる全区間における積分値,つまり下図の青い領域の面積は,重要な意味を持つことが多いです.例えば,横軸が年齢,縦軸がその年代の世界の人口の場合,青い領域の面積は「世界の総人口」を表します.また,物理学や化学の分野では,何らかの物体化から検出された光のスペクトルを扱う時,横軸に周波数,縦軸に光の強度をとります.そして,青い領域の面積を「積分強度」と呼びます(以下,全区間における積分値を積分強度と呼ぶ).積分強度は,光を発する物質の量を見積もるのに使われたりと,重要な意味を持つ物理量です.
このように,科学全般において,正規分布に従うデータを解析し,その積分値(積分強度)を求めるという統計的な処理は重要です.また,その積分値の誤差も見積もる必要があります.本記事では,Pythonを用いてデータをガウス関数(正規分布)でフィッティングした後,積分強度および積分強度の誤差を求めるまでの方法を解説します.
2. ガウス積分の値とFWHM
ガウス関数
$$f(x) = A\mathrm{exp}\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)$$
変数は\(x\),パラメータはピーク値\(A\),中央値\(\mu\),標準偏差\(\sigma\)の3つとなります. 確率密度関数は\(A=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\)の場合に相当します.確率密度関数は、全領域での積分値が1になるように\(A\)を規格化したものです.
ガウス関数の全区間における積分(ガウス積分)は,次の重要な性質を持ちます.
ガウス積分の公式
$$\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx = \sqrt{\pi}$$
ここで,ガウス積分の公式において,\(x \rightarrow \frac{x-\mu}{\sqrt{2}\sigma}\)と置き換えることにより,積分強度\(I\)を得ることができます.
積分強度
$$I = \int_{-\infty}^{\infty}A\mathrm{exp}\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)dx = A\sigma\sqrt{2\pi}$$
3. Pythonによるガウスフィッティング
任意の関数によるデータのフィッティングについては,こちらの記事で解説しています.
上の記事と重複している内容もありますが,ガウス関数によるフィッティングや,フィッティング結果の扱について示します.
# ライブラリのインポート
from scipy.optimize import curve_fit
import matplotlib.pyplot as plt
import numpy as np
# モデル関数の定義
def gauss_func(x,a,mu,sigma):
"""ガウシアン(正規分布)"""
return a*np.exp(-(x-mu)**2/(2*sigma**2))
# フィッティングを行うための関数
def fit(func, x, param_init):
"""
func:データxに近似したい任意の関数
x:データ
param_init:パラメータの初期値
popt:最適化されたパラメータ
pocv:パラメータの共分散
"""
X = x[0]
Y = x[1]
popt,pocv=curve_fit(func, X, Y, p0=param_init)
perr = np.sqrt(np.diag(pocv)) #対角成分が各パラメータの標準誤差に相当
y=func(sample_x, *popt)
return y, popt, perr
# パラメータの初期値の設定
param_init = [7, 2.5, 1]
# グラフ描画用のサンプルデータ
sample_x = np.arange(0, 5, 0.01)
# サンプルデータの用意
data_gauss_func = np.array([
[0, 0.5, 1, 1.5, 2, 2.5, 3, 3.5, 4, 4.5, 5],
[0, 0.5, 2.5, 4.5, 6, 7, 6.5, 4.5, 2.4, 0.5, 0],
])
# フィッティングの実行
result = fit(gauss_func, data_gauss_func, param_init)
fig, ax = plt.subplots(1, 1, figsize=(6, 6))
ax.scatter(data_gauss_func[0], data_gauss_func[1])
ax.plot(sample_x, result[0])
このように,データを上手くフィッチングすることができました.最後に,その結果を用いて,積分強度とFWHMという,重要な値を求める方法を解説します.
4. フィッティング結果から積分強度・FWHMとそれらの誤差を求める
まず,上のフィッティングの結果として,各パラメータの最適値\(A, \mu, \sigma\)と,標準誤差\(\delta_A, \delta_{\mu}, \delta_{\sigma}\)は次のように得られます.
\begin{align*}
\mathrm{result}[1] =[A, \mu, \sigma]\\
\mathrm{result}[2] = [\delta A, \delta {\mu}, \delta {\sigma}]
\end{align*}
A, mu, sigma = result[1]
d_A, d_mu, d_sigma = result[2]
では,FWHM(半値全幅)を求めます.FWHMは,ガウス関数\(f(x)\)に対して,最大値\(A\)の半分の値を与える\(x\)と,中央値\(\mu\)との差の絶対値です.そして,FWHMの最適値は次式のように与えられます.
$$\overline{\mathrm{FWHM}} = 2\sqrt{2\mathrm{ln}2}\sigma$$
よって,Python上でも,簡単な掛け算で求めることができます.
# fwhmの最適値
fwhm_0 = 2 * (2 * math.log(2)) ** 0.5 * sigma
また,\(\mathrm{FWHM}\)の誤差\(\delta\mathrm{FWHM}\)を含めると,\(\mathrm{FWHM}\)を次のように見積もることができます.
$$\mathrm{FWHM} = \overline{\mathrm{FWHM}} + \delta \mathrm{FWHM}$$
ここで,誤差解析における次の性質を用います.
任意の1次変数関数における誤差
\(x\)の測定誤差が\(\delta x\)の時,関数\(f(x)\)の誤差\(\delta f\)は次のようになる.
$$\delta f = \left| \frac{df}{dx} \right| \delta x$$
このとき,右辺2項目の標準誤差は,次のように求まります.
$$\delta \mathrm{FWHM} = 2\sqrt{2\mathrm{ln}2}\delta \sigma$$
# fwhmの誤差
d_fwhm_= 2 * (2 * math.log(2)) ** 0.5 * d_sigma
同様に積分強度が次のように書けるときを考えます.
$$I = \overline{I} + \delta I$$
積分強度の最適値は,ガウス積分の公式より\( \overline{I} = A\sigma\sqrt{2\pi}\)と求まります.
# 積分強度の最適値
I_0 = A * sigma * (math.pi) ** 0.5
任意の多変数関数における誤差
\(x, y, z, …\)の測定誤差が\(\delta x, \delta y, \delta z, …\)であり,それぞれの測定誤差に相関が無い時,関数\(f(x, y, z, …)\)の誤差\(\delta f\)は次のようになる.
$$\delta f = \sqrt{\left(\frac{\partial f}{\partial x}\delta x\right)^2 + \left(\frac{\partial f}{\partial y}\delta y\right)^2 + \left(\frac{\partial f}{\partial z}\delta z\right)^2 + …}$$
よって,パラメータの誤差の相関が0である場合,積分強度の誤差は次のように求まります.
$$\delta I = \sqrt{\left(\sigma\sqrt{2\pi}\delta A\right)^2 + \left(A\sqrt{2\pi}\delta \sigma \right)^2 }$$
# 積分強度の誤差
d_I = ((sigma * (2 * math.pi) ** 0.5 * d_A) ** 2 + ((A * (2 * math.pi) ** 0.5 * d_sigma))) ** 0.5
また,\(I = A\sigma \cdot \sqrt{2\pi}\)のように,積分強度を\(A\sigma\)の定数(\( \sqrt{2\pi}\))倍とみれば,\(\delta I\)をより簡潔に求めることもできます.
$$\delta I = \sqrt{(\sigma\delta A)^2 + (A\delta \sigma)^2 } \sqrt{2\pi}$$
さいごに
本記事では正規分布を取るデータを例に,その解析方法について解説しました.フィッティングによって求まった各パラメータとそれらの誤差を基に,各種の物理量などの誤差を算出するためには,誤差解析の理解が必要です.本記事で紹介した
- 任意の1次変数関数における誤差
- 任意の多変数関数における誤差
など,詳しく載っている書籍を紹介します.こちらの本は,学部時代に天文学系の研究室でデータ解析を行っていた際に,指導教員の方に紹介してもらったものです.欲しい情報を的確に得られると感じたので,おすすめの1冊です.
参考:「計測における誤差解析入門」JOHN R. TAYLOR 著,林茂雄・馬場凉 訳
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